らぷらた音楽雑記帳56*西村秀人・南米音楽サイト『カフェ・デ・パンチート』

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らぷらた音楽雑記帳

#056 ブエノスアイレス発、タンゴとキューバ音楽ソンの融合「コロニサードス」

2006.04.05

CD: Independiente No.なし "Tangoson / Colonizados"  

ここのところアルゼンチン盤の発売点数がかなり鈍っていたのと、本の仕上げに時間がかかったのですっかり間が空いてしまった。 今回ご紹介するのは異色の1枚。最初はどちらがグループ名かわからなかったのだが、演奏グループが「コロニサードス」、CDタイトルが「タンゴソン」。また新しいタンゴのグループかと思ってCDをかけてみてびっくり。タイトル通り「タンゴ」と「ソン」の掛け合わせなのである。曲目は「リベルタンゴ」「ラ・トランペーラ」「エル・チョクロ」「ロス・マレアドス」などおなじみの曲ばかり。ところが聞こえてくるのはバンドネオン、バイオリンのみならずボンゴ、クラベス、カウベル… そう、この「ソン」とは映画「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クルブ」でもおなじみキューバの大衆音楽「ソン」(son)なのだ! どうやらこのグループ、ブエノスアイレスのジャタイ(Yatay)通りにあるサルサ・クラブ「ラ・サルセーラ」を本拠地としているようだ。もともとラテンアメリカ各地から来る留学生の交流の場として1988年にスタートしたこの店は、ファン・ルイス・ゲーラのアルゼンチンでの人気などもあって、1997 年にアルゼンチン初のサルサ・クラブとなり、ダンス・レッスンやCDなどの販売も行っているようだ。(WEBページ:http://www.lasalsera.com/) 
グループ名「コロニサードス」は「植民地化された者たち」という意味で、キューバもアルゼンチンも同じスペインの旧植民地、ということだろうか。リーダーはコントラバスのロベルト・アメリセで、普段はタンゴとジャズ畑での活動が多く、なんとフアン・ダリエンソ楽団で来日したこともあるという。バンドネオンはグスタボ・パグリアで「ロス・コソス・デ・アル・ラオ」のメンバーとして来日したことがある。ギターはアルゼンチン人のネストル・バルビエリで、残りの 3人(トレス=キューバの民俗的ギター、バイオリンと歌、パーカッション)はアルゼンチンで活動するキューバ人アーティストだ。 以前10年ほど前にブエノスアイレスを訪れた際に、ドミニカのファン・ルイス・ゲーラのCDが至るところでかかっていてびっくりした覚えがある。それ以前はCD店にサルサのコーナーがあることすら稀で、「どうしてアルゼンチンの人はキューバ系の音楽を好まないのだろう?」と思っていたので、その急激な変わりようがあまりに意外だったのだ。  あれからさらに10年。キューバ音楽人気は地味ながらも着実に定着しつつあるということなのだろう。2つのジャンルをただ組み合わせればよいというものではないが、何はともあれ最初の一歩、という感じである。 7 曲目にはキューバの名曲「二輪のくちなし」(ドス・ガルデニアス)が登場、モダン・タンゴ風の味付けになっている。それまでのタンゴ名曲のソン化と逆のパターンになっていてこれも面白い。そして8曲目は「黒い涙」をオーソドックスなボレロ・ソンのアレンジで聞かせ、なぜかトリは純キューバ風にアレンジしたシャンソンの「枯葉」なのでした…。

文:西村秀人