らぷらた音楽雑記帳55*西村秀人・南米音楽サイト『カフェ・デ・パンチート』

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らぷらた音楽雑記帳

#055 スペインとアルゼンチンの絆~
フリオ・ボッカのユニークな新作

2006.01.25

CD: Sin marca CD004 "Tango Brujo / Leo Sujatovich"  


 「恋は魔術師」「はかなき人生」「三角帽子」「火祭りの踊り」…クラシックあるいはバレエの愛好家でなくとも一つや二つそのタイトルを聞いたことはあるのではないだろうか? いずれもスペインの偉大なる作曲家、マヌエル・デ・ファリャ(1876-1946)の作品である。いかにもスペイン的な曲調の作品はとても広く親しまれているといえるだろう。私はまったくクラシックに疎い人間だが、「火祭りの踊り」は子供の頃にはっきり聞いた覚えがある。「恋は魔術師」はカルロス・サウラ監督の同題の映画があったので、そちらでおなじみかもしれない。 ファリャの作品を、アルゼンチンを代表するバレエ・ダンサーであるフリオ・ボッカが踊る、というだけならこれといって珍しいわけでもない。ファリャはもともとバレエ作品も書いているし、ボッカは本来クラシック・バレエのダンサーである。ところが今回のステージではファリャの代表的作品をタンゴにアレンジして踊るのである。今回紹介するのはそのサントラ盤。 編曲と演奏をつとめるのはレオ・スハトビッチ。従来映画音楽の分野で活躍する機会が多かったピアニストらしいが、2002年に発表した"Trio de camara - Tangos" (Mutis CD0024)は、タイトル通りダミアン・ボロティンのバイオリン、パトリシオ・ビジャレホのチェロとのトリオ編成で、室内楽風でありながらもシャープで洗練された現代のタンゴの味わいをもった好盤だった。今回のファリャ作品集にもその編曲手法がうまく生かされ、全曲とも見事に現代タンゴとして聞きうる音楽に変身している。ファリャの作品の中でも特に有名な部分だけをピックアップしているので親しみやすさもある。踊るために紋切り型に編曲するのではなく、むしろ手法としてはピアソラの感覚に近いものだといえる。 現在ボッカはスペイン公演中で、そのうち1月24日から29日までマドリードのアルベニス劇場の公演で「タンゴ・ブルーホ」のスペインでのお披露目公演があるとのこと。その筋ではかなりの人気があるというスペインの著名なバレエダンサー、タマラ・ロホとボッカの共演も話題らしい。 ちなみにジャケット写真はボッカでもスハトビッチでもなく、女性はタマラ・ロホ、男性はボッカ舞踊団のエルナン・ピキンです。 もちろんどのように踊るのか観てみたいからDVDの発売を切望するけど、このCDだけでもかなり面白い。ちゃんとスペインのファリャ財団の許可もおりたそうだが、ファリャの音楽性を損なっていないというお墨つきもをもらっただけのことはある、といったところか。

文:西村秀人