らぷらた音楽雑記帳57*西村秀人・南米音楽サイト『カフェ・デ・パンチート』

HOME > LaPlata57

laplatazakki057.jpglaplatazakki057_2.jpg

らぷらた音楽雑記帳

#057 ベト・カレッティの隠れ名作~ロス・ムシケーロスのアルバム

2006.07.09


今年も各地でソロ・コンサートを開く予定のベト・カレッティ。アルゼンチン人ながらもブラジル音楽に心酔し、ブラジルで学び、ポルトガル語で歌う彼のスタイルは、去年のコンサートでも多くのブラジル音楽ファンに認められた。 その昨年の日本におけるライヴ・レコーディングがCD「エン・ビボ・エン・ハポン」も発売されたばかりだが、今回は彼の「もう一つ」の活動、ロス・ムシケーロスのことを取り上げてみよう。 ロス・ムシケーロスは1985年に、歌手のテレサ・ウサンディバラスと音楽家のフリオ・カルボによって結成された。歌が大好きだった小学校の先生テレサが、生徒の父兄から子供が家で歌えるよう録音してほしいと頼まれたのがきっかけだという。だからロス・ムシケーロスの音楽は子供のための音楽なのだ。
私の手元には4枚のCDがある。

(1) El Arca de Noe AN-602 "Con todos los ritmos" (1993)
(2) El Arca de Noe AN-625 "Cari Caracua" (1996)
(3) El Arca de Noe AN-635 "Canciones colgantes" (2001)
(4) Independiente MUS-333 "Pequeno romance de barrio" (2005) Los Musiqueros

1枚目はトーマス・ネルソンが参加しており、ベトはまだ参加していない。 2枚目はネルソンがゲスト扱いになり、オマール・モンテスが参加、ベトも半数ほどの曲に参加している。ということはベトがロス・ムシケーロスに参加したのは1995~6年なのだろう。ラ・プラタの大学で勉強しているときに、ベトの先生がテレサを知っていて紹介されたのだという。ここでベトはギターとベースはもちろん、1曲でソロ・ボーカルを取り、さらにピアノ、カバキーニョ、バンジョー、ボンボ、カホン。洗濯板、口(くち)トランペット、口(くち)ドラムに至るまでありとあらゆる楽器で参加。子供たちと合作したテレサの作品もあるが、ムルガ、キューバのソン、カルナバリート、チャカレーラ、ペルーの黒人音楽のドン、ニコメデス・サンタクルス採譜のペルーのハバネラに至るまで子供向けとても思えない高度な音楽性を持った作品ばかり。ベトが歌うのは "Bahia me mandaram"で、ブラジル北東部の味をもったきれいな曲だ。 2001年の 3枚目になるとメンバーはテレサ=フリオ=ベトの3人となる。半数以上をベトの作品が占め、ブラジル系とフォルクローレ系が中心だが、ベトのソロやレギュラー・トリオとはまた一味違った感じも魅力的(珍しくサンバ調でもスペイン語で歌ったものも)。メンバーの作品に混ざってカエターノ作品のカヴァー "Canto de povo de um lugar"、ウルグアイのシタローサのレパートリーだったカンドンベ「ラ・ロンダ・カトンガ」、ベネズエラのホローポなどもあって、もはや子供向けだけではもったいなさ過ぎる。 昨年出た4枚目は編曲とプロデュースもベトの担当になり、タイトルとなった6曲からなる組曲「ちまたの小さなロマンス」をはじめ、半分以上がベトの作品。ボーカルもベトの存在が大きくなり、ベトの色がさらに強くなった感じ。しかし形式はフォルクローレ、ブラジル系、クンビア、アフリカ、タンゴ(何とベトの作曲)と多彩な点は同様。 歌詞に多少子供向けの内容が見られるとはいえ、このバンドの音楽はラテンアメリカ各地のバラエティに富んだ形式を使い、リズムの楽しさ、歌うことの楽しさを伝えている。こんな曲で授業やってたら音楽の感性がとぎすまされるだろうなあ。フリオは自作のがらくた楽器みたいなものも使うので、ライヴではその辺もみどころになっているのだろう。とにかくベトのファンなら2001年の(3)と2005年の(4)はぜひ聞いてみてほしい内容。