2004.10.18
DVD: DBN 5 51794 "La juntada"
今回はライヴDVDのご紹介。アルゼンチンの音楽DVDはブラジル音楽にくらべると大分遅れをとってはいるものの、ここ数年でまずまずの点数がコンスタントに発売されるようになってきた。フォルクローレはタンゴ、ポップス系に比べるとかなり少なめで、今まではメルセデス・ソーサ、ロス・チャルチャレーロスなど往年の大物の映像が中心で、最新の動きを映像で伝えてくれるようなものはあまりなかった。
今回のDVDはそんな渇きをいっぺんに癒してくれる素晴らしい内容だ。名門カラバハル一家の出にして、一番アグレッシヴな道を歩いているペテコ・カラバハル、独特な風貌のドゥオ・コプラナク、ロックに接近しつつもフォルクローレのルーツを追求したりもする多才なラリ・バリオヌエボによる新ユニット「ラ・フンターダ」の2003年12月、テアトロ・オペラでのライヴなのである。いずれもすでに複数枚のアルバムを発表し、確固たる名声と人気をすでに得ているアーティストたちが、あえて集まるそのわけは...それはDVDを見れば一目瞭然。単なる3組の豪華顔見世競演ではなく、あくまで4人による新ユニットとしてのコンサートなのである。 おごそかなイントロとともに4人の姿が浮かび上がり、最初に歌われるのはチャカレーラの代表的名曲として知られるディアス兄弟とユパンキの傑作「忘却のチャカレーラ」(La olvidada)。当然ながらいきなりの盛り上がりだ。バイオリン、バンドネオン、エレキ・ギター、ドラムも加わり、サウンドは現代の色を持つ。チャカレーラとロックには聴衆をいちどに一体にしてしまう強烈なのりという共通点がある、と思える瞬間だ。その後も巧みな変化をつけながら(途中に各人の新ユニットに対する意気込みを語ったインタビューが挿入されるのもDVDならでは)、ユニークな4人の共演が続く。
個人的にはこれまであまり聞く機会の少なかったドゥオ・コプラナクに注目。フリオ・パスとロベルト・カントスのコンビはサンティアゴ・デル・エステーロ出身だが、兵役後暮らしていたコルドバで出会ったそうだ。ドゥオの結成は1985年、1990年頃にそれまでクラシックの演奏家だったコルドバ出身のアンドレア・レギサモンのバイオリンが参加(もちろん今回のDVDでも巧みなバイオリンとコーラスを聞かせ、ペテコとのダブル・バイオリンもあり)、現在までに6枚のCDを発表、ロス・チャルチャレーロスのラスト・アルバムにもゲストとして参加した。長髪にひげ面という、どちらかといえばアメリカン・インディアンのような風貌(たしかこんな顔の犬もいたな…)は一度見たら忘れられない。私が彼らのCDを1枚しかもっていないのにちゃんと覚えていたのもその風貌ゆえだろう。フリオ・パスのボンボを抱える姿は実にサマになっている。
ペテコ・カラバハルの優れた音楽性と高い人気はこれまでの数々のアルバムで充分証明済み。このユニットでは適度に抑制を効かせ、ここぞというところですっと表に出てくるのが貫禄たっぷり(ペテコ・ファンは少し欲求不満になるかも?)。とがったアーティストという印象のあったラリ・バリオヌエボは4人の中では一番ポップな線だが、伝統を重んじつつ、ポップな味わいを時折聞かせ、都会的な叙情性で他の3人と少し異なる感覚をみせる。3組のレパートリーをめぐりつつ、途中名曲「カーニバルの香り」などもはさみ、流れが実にいい感じ。意外としんみりした部分も多いのだが、後半はペテコ作の「俺はサンティアゴ男、俺はチャカレーラ」(Soy santiaguen~o, soy chacarera)でしっかり盛り上がる。やっぱりこの4人をつなぐのはお国振りのチャカレーラだなあと実感。
おまけとして各アーティストの最近のビデオクリップも収録され、こちらも凝った作りでなかなか面白い。DVDも臨場感たっぷりだけど、ライヴを直に観たいなあ...やっぱり。 未確認だが、同じような内容のCDもDBNから発売中。そちらで音楽だけに集中して聞けばまた何か発見があるかもしれない。
文:西村秀人