らぷらた音楽雑記帳44*西村秀人・南米音楽サイト『カフェ・デ・パンチート』

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らぷらた音楽雑記帳

#044 洒落たイラストにフュージョン・サウンドの都会派タンゴ

2004.09.12

CD: PAI Records 3076 "Buenos Aires nomade / 3-0-3"

 ピアノのエルナン・バレンシアを中心として、1996年に結成されたフュージョン系のタンゴ・グループ「3-0-3」(たぶんトレス・セロ・トレスと読むのだと思うが確信はない)。すでに1999年、ファースト・アルバム "Musica con Buenos Aires" (PAI Records 3030)を出しており、今回のアルバムは2枚目となる。ファースト・アルバムには6人のメンバーが記載されており、音楽もフュージョン色の強いものとなっていた。ファーストCDの録音直前、エルナンはフジテレビが主催したタンゴ・ショウ「タンゴ・ブエノス・アイレス」に、ワルテル・リオス楽団のキーボーディストとして参加、長期日本に滞在しており、その時一緒だったマリアーノ・シグナ、セバスティアン・マルティネス(バンドネオン)、ホセ・ルイス・コルサーニ(ドラム)などがファースト・アルバムのゲストとして参加、「アディオス・ハラジュク」なんて曲も収録されていた。
今回の5年ぶりの新作では、メンバーが変わり、エルナン、ルシアーノ・シアレタ(バンドネオン)、ディエゴ・ネデル(ベース)、ヘラルド・ソルニエ(ドラム)の4人。ルシアーノ・シアレタはオルケスタ・エスクエラ・デ・タンゴ出身で、バレ・タンゴをはじめとする若手グループによく参加している実力派。近年もっとも信頼厚いバンドネオン奏者の一人だ。ネデルとソルニエはエルナンが古くから行動を共にしている音楽家のようだ。2002年にはスイスのモントルー・ジャズ・フェスティバルに出演、2003年はスイス、イタリア、ドイツでツアーを行っており、その成果が今回のCDなのだろう。
収録曲は1曲をのぞきすべてエルナン・バレンシアの作品で、曲によってゲストとしてフリオ・モラレス(パーカッション)、パブロ・マイネッティ(バンドネオン)らを迎え、変化をつけている。「リズム&タンゴ」「パラナーのアメリカ人」「1999と灰色の男」など何やらエピソードのありそうなタイトルが並ぶ。
ドラムの入ったジャズ-フュージョン系のサウンド、しかもメンバーの新作のみ、という点は好みが分かれるところだと思うが、何より私が気に入ったのは実はジャケットのイラスト。CD表に文字がないという大胆なデザインだが、イラストに描かれているのはこれから旅立とうとするリュックを背負った若者が自動販売機で何か買おうとしている様子。よく見るとその自動販売機に入っているのは「牛肉」「マテ茶(容器付き)」「サッカーボール」というアルゼンチンの「三種の神器」(?)なのである。CDジャケットは開くとさらにイラストの続きがあってメンバーと思しき3人のイラストも登場する。
コレクターの間では内容と関係なくジャケットがよいという理由でレコードを買うことを「ジャケ買い」と言ったりするが、このCDは「ジャケ買い」を誘う出来である。内容がいいのにジャケットがお粗末なものが多いアルゼンチン盤としては秀逸。
文:西村秀人