らぷらた音楽雑記帳40*西村秀人・南米音楽サイト『カフェ・デ・パンチート』

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らぷらた音楽雑記帳

#040 モダン・タンゴが日本に来た日:ピアソラ・イン・トーキョー1982

2004.06.28

CD:ポリスター・ジャズ・ライヴラリー MTCW-1012/13 「ライヴ・イン・トーキョー1982」


現代タンゴの巨人、アストル・ピアソラが世を去って12年。日本のタンゴ・ファンにとって忘れられない音源が陽の目を見た。1982年11月、アストル・ピアソラがキンテートを率いて初来日した時のライヴ音源の完全CD化である。
1982 年当時、私はようやくラテンアメリカ音楽を聴き始めた頃で、ピアソラのステージは見る機会を得なかった。でもFM放送を聴いて「これが今のタンゴか」と思った覚えはある。今回のCDはそのFM放送用に収録された音源から、当日の演奏曲目全てをCD2枚に収録したものである。残念ながらマスターは紛失しており(NHKでは保管場所がないのでクラシック音楽以外のマスターは一定期間保管された後廃棄されると聞いたことがある)、関係者の持っていたコピーから制作されたらしいが、リマスタリングは優れており音質は大変よい。
ピアソラはその後1984年、1986年(ゲイリー・バートンと共演)、1988年(ミルバと共演)、キンテートと共に来日した。私が見ることが出来たのは最後の2回。出来ることならその前の2回も見たかったところだが、まだ古いタンゴにしか興味のない時期だった。でもどこの放送局も録音しなかったという1986年の東京公演を観ることが出来たのはラッキーだった。なにしろいい演奏だったのだ(後に発売されたモントルー・ジャズフェスティバルでのCDよりはるかに良かったと思う)。そのたった1回の東京公演、後ろの方の席はガラガラだったのだから、今から考えると嘘のような話だ。
1982年公演に話を戻そう。まずこのCDでは、藤沢嵐子とピアソラ・キンテートの共演が興味深い(キンテートでは一度も録音しなかった「ラ・クンパルシータ」もある)。他の曲目は同じ頃のライヴ録音がすでに出ているものが多いが、私の大好きな「五重奏のためのコンチェルト」、アドリブパートをふんだんに含む「AA印の悲しみ」など、今までのCDとは一味違う新鮮な緊張感のみなぎった演奏が聴ける。「ピアソラ作品は本人の演奏に限る」という思いも改めて強く感じた。ジャケット写真やライナーも素晴らしく、英文の短い解説をつければ充分に輸出可能な逸品。実際この会場にいた人には何より想い出深いCDとなるだろう。FMでは放送されなかった録音まで収録されているのだから。
久しぶりにピアソラの音楽に正面から向き合った気がする。ここしばらく、何となく納得のいかないピアソラ作品集ばかり聞いていたんだなと実感した次第。もっと本人の演奏聞かなくては。
現在同じシリーズで1984年の日本公演を出そうとしているらしく、FM放送時の良質な音源を持っている人を探している旨記されている。是非良い音質で実現して欲しいものだ。

文:西村秀人