らぷらた音楽雑記帳33*西村秀人・南米音楽サイト『カフェ・デ・パンチート』

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らぷらた音楽雑記帳

#033 ベテラン・ギタリスタの年輪-カルロス・ディ・フルビオ

2004.03.06

CD: M&M=GLD GK38260 "De cuno y raiz" / Carlos Di Fulvio

アルゼンチンでは広く知られているけど、日本ではほとんど知名度ゼロに近い、というアーティストは少なくない。特にフォルクローレの分野に関してはかなり極端な状況があるのではないかと思う。1960年代から今日まで地道に活躍を続けているギタリスト・作曲家・歌手のカルロス・ディ・フルビオもそんなアーティストの一人だろう。
カルロス・ディ・フルビオは1939年コルドバのカリロボに生まれた。6つ年上の兄、エドガル・ディ・フルビオも 1960年代半ばにギター弾き語りで人気を博したアーティストだった。カルロスのラジオ初出演は1953年、1959年には「マルティン・フィエロ賞」を獲得しレコードデビュー、毎年おなじみのフォルクローレの祭典「コスキン祭」の理事も長く務めた。曲としては「ギタレーロ」(Guitarrero)が最大のヒットで、他にも「ドニャ・マクロビアよ、覚えているかい?」、組曲「ビダリータの誕生」などユニークな作品を残している。
また彼はパタゴニアの音楽を題材にした楽曲を広く紹介した先駆的存在でもある。これまで制作したアルバムはざっと見ても30枚は下らない、ひょっとすると50枚近いかもしれない。
ギターのスタイルにも、歌声にもエドゥアルド・ファルーとの共通点が見受けられ、日本のフォルクローレ・ファンに受ける要素は充分あると思うのだが、なぜか単独アルバムが日本で発売されたことは1度もなく、1960年代の録音から「ギタレーロ」など数曲がオムニバス盤によって紹介されたに過ぎない。
そんなカルロス・ディ・フルビオの2003年録音の新譜が手元に届いた。ここしばらくの新譜はすべて彼自身のギター弾き語り&独奏によるものだったが、今回のアルバムにはディ・フルビオの信奉者だというギタリストのリカルド・ロドリゲス・モリーナ、モリーナと同じラプラタ出身のギタリストであるアルベルト・マナリーノ、モダンなコーラスグループの草分け的存在だった「ロス・ウアンカ・ウア」の元メンバー2人、エミリオ・マルティネス・フノールとラウル・トマスが組んだ「ドゥオ・ソカボン」の演奏・歌も収録され、いわばディ・フルビオ・ファミリーのアルバムという感じがあり、いつもよりもバラエティに富んだ内容となっている。収録曲はディ・フルビオの作品が多く、代表作の一つであるチャカレーラ「カンポ・アフエラ」がゲスト全員の参加により演奏されているのが楽しい。個人的にはドゥオ・ソカボンによる3曲、「バイオリン弾きのバイオリン」(エスコンディード)、名曲「私が悲しい時」、クージョの巨人イラリオ・クアドロスのクエカ「広場の車屋さん」が味わい深く感銘深いものがあった。 ディ・フルビオはきっとすごく真面目人間で実直な人ではないかと思えるのだが、その性格が多少音楽を地味なものにしているきらいはある。しかしユパンキやファルーの系列に入るギター演奏は巧みなものだし、今回のCDのように良いアーティストを自己のアルバムで紹介するという、プロデューサー的な役割も向いているのだと思う。
とにかくもう少し広くきかれて欲しいなあ、と思うアーティストである。アルゼンチンでは往年の名演を集めたベスト盤(RCA/Microfon)も時折発売されている。

文:西村秀人