2004.03.20
CD: EPSA 0356-50 "Orquesta El Arranque en vivo"
もはや「若手」という形容も必要なくなったオルケスタ・エル・アランケの新譜。実は小松亮太のオルケスタに客演するため来日したラミーロ・ガージョがお土産にくれたもので、日本にもほどなく入荷するはずである。
何よりまず、その装丁に驚く。ジャケット写真が横長になっていることに気付いた方もあるかと思うが、CDの横幅を長くしたサイズで、何と96ページのブックレット付きなのである。そこにはメンバーの写真がふんだんに使われ、このスイスでのライヴ・ツアーの経過や様子がスペイン語と英語で解説されている。はっきり言って、アランケのミニ写真集にCDがついている、という状態である。
CDの内容はというと、やや古く2002年10月31日にスイス・ルガーノの劇場でライヴ録音されたもの(この劇場ではかつて1983年10月にアストル・ピアソラの五重奏団がコンサートを行い、のちにその録音もCD化されたことがある)。2002年、エル・アランケは3ヶ月に及ぶ日本公演を終えたあと、すぐ北米公演に向かい、帰国後はアルゼンチンで新CD "Clasicos"(日本では先に来日記念盤として出たものとほぼ同一)の発表記念コンサート、と大変忙しい日々を過ごしていた。そしてスイスへのツアーの10日前、突然第2バンドネオンのホルヘ・スペソートが脱退、急遽オルケスタ・エスクエラに在籍していたフアン・ラミーロ・ボエロを新メンバーとして特訓し、ツアーに旅立つことになった。 したがってこのCDはラミーロ・ボエロ参加後初のCDとなる。
10日間でたくさんのレパートリーを修得するのはたぶん至難の技だったことと思うが、CDを聞くと、そのことがかえってグループ全体にいい意味での緊張感を与え、以前録音したことのある「パリのカナロ」「アエロタンゴ」「エル・アランケ」といったレパートリーにも新鮮味が感じられる。もちろん「ア・ロス・ミオス」「マダム・イボンヌ」「ウナ・エモシオン」「ソラメンテ・エジャ」など初録音となるレパートリーも含まれている。5曲を専属歌手のアリエル・アルディトが歌うが、いずれも彼の個性が生かされたいい味に仕上がっている。
アリエルの歌は日本公演中に飛躍的な進歩をみせており、その成果がこのCDに発揮された。
素晴らしかった一昨年の日本公演を思い出しつつ、タンゴの伝統の道を確実に歩んでいくアランケのさらなる飛躍(出来ればスタジオでの最新レパートリーの録音)に期待を寄せたい。
なお、ブックレット仕様の豪華版は初回のみで、以後はCDサイズの通常盤になってしまうとのこと。アランケのファンはぜひ初回版を逃さないように。
文:西村秀人