らぷらた音楽雑記帳32*西村秀人・南米音楽サイト『カフェ・デ・パンチート』

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らぷらた音楽雑記帳

#032 名門セステート・マジョール、栄光の30年

2004.02.19

CD: Network(Alemania) 25.192 "Passion du tango / Sexteto Mayor" (2CD) 

 「タンゴ・アルゼンチーノ」「タンゴ・パッション」などのタンゴ・ショウへの参加で国際的な名声も高いタンゴの名グループ、セステート・マジョールが結成 30周年を迎え、その記念盤がドイツで発売された。筆者は去年3月のフェスティバルで久しぶりにセステート・マジョールの生演奏を聴いており(その前では 30組近くのアマチュアのペアが踊っていた)、新録音を含むCDの発売は実に感慨深いものがある。
1973年、それまで歌手は主に歌手の伴奏楽団や編曲者として、どちらかといえば裏方で活躍することも多かった2人のバンドネオン奏者、ホセ・リベルテーラとルイス・スタソを中心に、フェルナンド・スアレス・パスvn、レイナルド・ニチェーレvn、アルマンド・クーポpf、オマール・ムルタcbという凄腕メンバーを集めてセステート・マジョールは結成された。1970年代前半にはテクニカルな演奏で話題をさらったバングアトリオ(ネストル・マルコーニbn、オマール・バレンテpf)、フェデリコ=ベリンジェリのトリオ、ホセ・コランジェロのクアルテートなど、若手~中堅の名手たちがいっせいに自身の現代的な演奏を世に問うた時期でもあり、リベルテーラたちもこのタイミングを自己主張の好機と考えたに違いない。原則として歌手との共演はしない、というところにもそれまでくすぶっていた不満を一気に解消しようとする方向性が見て取れる。
その後リベルテーラとスタソ以外のメンバーは交代したが(最初のメンバーのうち、半数は故人となった)、オルケスタ・ティピカ並みのボリュームを誇る名手の集団として常に第一線にあった。1~2年に1枚のペースでアルバムを発表、1978年にはメンバーを補充してホセ・リベルテーラ楽団という形で来日(リベルテーラ自身はそれ以前の1967年にキンテート・グローリアを率いて来日している)、 1986年からはブロードウェイ・タンゴ・ショウ「タンゴ・アルゼンチーノ」の音楽を担当、このショウの大ヒットによりその名声は欧米に広く伝わり、以後海外公演が圧倒的に多くなる。やはり音楽を担当したショウ「タンゴ・パッション」もかなりのヒットとなり、ブエノスアイレスで公演を行う暇もないほど世界中を駆け巡っていた(実際私はブエノスアイレスでセステート・マジョールの公演を見る機会にはめぐりあえたのは去年の3月が初めてである)。
さて、今回のアルバムには1970年代のアルゼンチン録音も含まれているが、基本的には「タンゴ・アルゼンチーノ」のヒット以降ヨーロッパ各地で録音した音源と、2003年の新録音(ブックレットの表記が正しければ11曲)で構成された、セステート・マジョールの歴史と現在を伝えてくれるアンソロジーである。ダイナミックなタンゴの躍動感を十二分に伝えながら、名手のソロでも楽しませてくれるバランスのよさは他のグループには求めえない。
一時期健康を害していたスタソもすっかり復調したようだし、老舗のパスタ屋の親父みたいなイタリアーノ、ホセ・リベルテーラのパワーも健在である。本CD2枚組には英語・独語・仏語3ヶ国語によるブックレットがつき、30周年にふさわしい体裁になっている。
ところでアルゼンチン本国でこれに匹敵するものは出ないのだろうか? 30年レギュラーで活躍し続けたグループはそうはないのだが…
文:西村秀人