らぷらた音楽雑記帳31*西村秀人・南米音楽サイト『カフェ・デ・パンチート』

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らぷらた音楽雑記帳

#031 アイドル歌手岐路に立つ?:
ソレダー8枚目のアルバム

2004.02.06

1997 年のことだったろうか、ブエノスアイレスのスーパーマーケットにあふれかえるソレダー・グッズ(手鏡、下敷き、シールなど)をみて、彼女の異常な人気を実感したのは。フォルクローレの女性歌手で、子供たちにあれほどの人気を得たアーティストはいなかったのではなかろうか。
あれから7年、毎年1枚のペースでアルバムを発表してきたソレダーの新譜 "Adonde vayas" (COLUMBIA 2-509134)が届いた。もはやポンチョを手で振る姿はおろか、笑顔のソレダーもジャケットには登場しない。ジャケットの凝った作り(裏に歌詞が載った大人っぽいソレダーのポートレイト・カードが8枚入っている)も、これまでの作品とは明らかな方向性の違いを感じさせる。
というわけで1曲目を聞いてみると拍子抜けするほどポップなサウンド。声も心なしか太くなり、歳月の流れを感じる。さらにラテン風、バンドネオンも入ったオーソドックスなチャカレーラ、自作のルンバ・フラメンカ、かつてのアイドル時代の感じも垣間見える元気なチャマリータ、ポップな味わいのアンデス調、クンビア風の軽めのナンバー、ボレロ、カンドンベと多様な展開を見せていく。確かに歌はうまい。余裕を持った歌いっぷりである。ヒットする要素をもった曲もある。しかしアルバム全体に通じる印象というか、メッセージのようなものが伝わってこないのだ。アイドル時代のソレダーから離れようと自己主張しているのはわかる。でもマイアミを拠点とするようなスペイン語圏のポップ・スターになりたいのか、メルセデス・ソーサのような実力派を目指したいのか、それとも…
CDの最後に収められたリト・ビターレやルーチョ・ゴンサレスとの共演トラック「あなたのサンバ」(Zamba de Usted)を聞いてほっと出来たのはなぜだろう。でもこの1曲、伴奏陣がまったく違うことから考えて以前のアルバムでオミットされたトラックではないかという気もするのだが…
それはともかく、ソレダーは今これからの方向性を決める岐路に立っているなと感じる。スタートであまりに大きな成功をつかむとあとが大変なのは確かだ。ソニーという多国籍企業の販売戦略も影響しているのだろう。実力はあるのだから、もっと素直にやればいいのでは?と思ったりもする。今回バラエティに富んだ曲種はほとんどがソレダーの自作だから、実は本作が素直にやった結果なのだろうか?
文:西村秀人