らぷらた音楽雑記帳30*西村秀人・南米音楽サイト『カフェ・デ・パンチート』

HOME > LaPlata30

laplatazakki030.jpg

らぷらた音楽雑記帳

#030 コーペス・タンゴ・コーペス:
DVDでみる異色タンゴ・ショウ

2004.01.23

GATIVIDEO DVD-9 "Copes Tango Copes - El musical"

 タンゴ・ダンスの巨人、フアン・カルロス・コーペスについてはこの連載の第4回「タンゴ・ダンス・ショウ今昔」でもとりあげたが、この度アルゼンチンで2000年12月の初演から断続的にロングランを続けてきたコーペスのタンゴ・ショウがDVD&ビデオ化された。 タイトルは「コーペス・タンゴ・コーペス」といい、テーマはズバリ、今年で73歳になるコーペス自身のタンゴ人生。腕を競い始めたミロンガ「アトランタ」の風景(1949年頃)、ルナ・パークのコンテストでの優勝(51年)、ロックに押される苦渋の時代、カナロのミュージカル・コメディ「タンゴランディア」ヘの出演(57年)、アストル・ピアソラとの出会い(59年)を含む北米公演とラスベガス滞在時代(59?65年)、大ヒットしたブロードウェイ・タンゴ・ショウ「タンゴ・アルゼンチーノ」ヘの参加(83年? )、カルロス・サウラ監督の映画「タンゴ」ヘの出演(98年)…といったコーペスのタンゴ人生がフアン・カルロス・コーペスと娘ヨハナ・コーペス、および舞踊団のダンサーたちによって90分にわたって繰り広げられる。(歌手のマリア・グラーニャも登場するが基本的にゲスト扱い。コーペスとは近年のステージでよく共演しているから違和感はないのだが) 2001年12月にコーペスの伝記(Mariano Del Mazo, Adrian D'Amores "Quien me quita lo bailado - Una vida de tango" Corregidor, 2001)が出版されているが、このDVDはまさにこの本の内容をステージ化したものといえる。「1曲ごとにそれぞれのダンサーが持ち味を発揮して、ところどころ群舞でアクセントをつける」というタンゴ・ダンス・ショウの常套手段とはだいぶ異なっており、さながら1本の映画を見るような作品である。 自分の人生をステージ化するという手法は一歩間違えば、自己アピール・自慢話の色合いが強くなり過ぎ、嫌味なものになりかねないが、さすがコーペスの気品と実力、そんないやらしさは微塵もない。 ただ一つ複雑な思いがするのは、約50年近くコンビを組んできたパートナー、マリア・ニエベスが(たとえ象徴としても)このステージに登場しないことだ。1948年に知り合った二人は1965年正式に結婚、しかし1997年頃コンビを解消、その後も時折共演したが、基本的に袂は分っている。伝記を読んで始めて知ったのだが実はコーペスはマリア・ニエベスと夫婦だった間に別の女性2人との間にそれぞれ1人づつ娘をもうけており、その愛憎には根深いものがあるのだろう。現在のパートナーである娘ヨハナの面影とその至芸にすべては継承されている、ということなのかもしれない。 先駆者の貫禄、伊達男の色香…コーペスは要所要所でしか踊らないが見事。

文:西村秀人