らぷらた音楽雑記帳29*西村秀人・南米音楽サイト『カフェ・デ・パンチート』

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らぷらた音楽雑記帳

#029 はるかリバプールからブエノスアイレスへ:
タンゴによるビートルズ曲集

2004.01.12

CD: EMI=Alfiz CD5972522 Tangos de Liverpool / Daniel Garcia Quinteto Tangoloco 

デビュー・アルバムでロックやポップスのセンスを取り入れた大胆なアルバムで評判をとったダニエル・ガルシア率いるタンゴロコの2枚目のCD。正直なところ個人的には前作(EPSA 18805 "Tangoloco" / Daniel C.Garcia)はそれほど感心しなかったので、今回もそう期待していなかった。
「ふ~ん...もう2枚目を出したのかあ...今回はリバープレートのタンゴだって?...曲目は…エレノア・リグビィ、ミッシェル、ザ・フール・オン・ザ・ヒル…ん!?」
よく見ればリバープレートではなくリバプールだった。 (RとLが違うんだから気がつきそうなものだが、かなりぼけっと見ていたらしい)。
リバプールといえばビートルズを生んだイギリスの港町。近代化の発展とそのひずみの中で育まれた港町の文化、という意味では時代こそ違え、タンゴとビートルズだってそう遠くはないのかもしれない。しかしボサノーヴァ、フォルクローレ、サルサ、ショーロのスタイルによるビートルズ曲集は聞いたことがあるが、タンゴによるビートルズ曲集というのはたぶん初めて。(単独の楽曲をアレンジしたものは数例あったけど)
このアルバムのいいところは単にビートルズのメロディを安易にタンゴのリズムに乗せているのではなく、曲調に応じてかなりスタイルを変えており、ロックやフュージョンに接近したこのグループの特色もきちっと生かしているところ。しかし前作よりははるかにタンゴ寄りに仕上がったのは不思議。だからこそ私にとっても面白かったのだと思うが。
リーダーのダニエル・クラウディオ・ガルシアはピアノ奏者で、バンドネオンは中堅どころの名手ワルテル・カストロ、他にコントラバス、エレキ・ギター、ドラムという編成で、古典タンゴ派にはお勧めできないが、面白いことは確か。キワモノでもあるのだが、ちゃんと聞きどころもある。
CDブックレットに記された曲名も笑える。「イエロー・サブマリン」は "Amarrillo Subte B"(candombe)、「デイ・トリッパー」は "Dia piquetero"(tangorock)、「サージェント・ペッパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」は "La banda del Sargento Garcia"(candombe/tango)といった具合。
思いっきりふざけた訳にしてあるのだ。生真面目な若手のタンゴ・ミュージシャンが多い中、こういう遊び心も楽しい(たまにはね)。

文:西村秀人