らぷらた音楽雑記帳21*西村秀人・南米音楽サイト『カフェ・デ・パンチート』

HOME > LaPlata21

laplatazakki021.jpg

らぷらた音楽雑記帳

#021 アルゼンチンは歌いたい!

2003.09.17

CD: EMI72435 90747 2 6 "Argentina quiere cantar! / Mercedes Sosa, Leon Gieco, Victor Heredia"

メルセデス・ソーサ=67歳、レオン・ヒエコ=51歳、ビクトル・エレディア=56歳。
アルゼンチン・フォルクローレの大御所ソーサに、現代のフォルクローレに関わってきたスター2人が共演するというぜいたくな企画。今年4月、ルナパークで行われたコンサートのライヴCDである。ジャケットを見ると「3人とも歳をとったなあ…」という印象も受けるのだが、この共演がとても楽しいものであったこともよくあらわれている。 体調不良を理由に今年予定されていた日本ツアーをキャンセルしたソーサだが、ここでは貫禄充分(つい最近もアルバム「アクスティコ」の受賞記念で歌っていたし、コンサートで1曲マルタ・アルゲリッチと共演したなんてニュースもあった。やはり日本以外のアジア諸国でのチケットの売れ行きが芳しくなかったのがキャンセルの理由か?)。
レオン・ヒエコは基本的にはロックの人なのだと思うが、「ウシュアイアからキアカまで」というフォルクローレの源流をたどるアルバムを制作してからはかなりフォルクローレ寄りの活動を展開してきた。若手アーティストを発掘する一方で、大ベテラン、アントニオ・トルモとの共演盤を作ったりもしている。今回のライヴでは他の2人との違いを強調したかったのか、ややロック寄りのスタイルを選んでいる感じ。
でも個人的には優れたソングライターでもあるビクトル・エレディアをひいきしたくなる。これまで30点近くのアルバムを発表しながら、日本で単独盤1枚発売されたこともなく、アルゼンチンでの人気に比して日本での知名度があまりに低いからだ。ここでは「空の瞳」「プラスチックの子供たち」など社会性溢れる叙情的なメロディを自身で歌い、ソーサも彼の作品「私の心の中の青と白」を歌う。ユパンキの詩にビクトルが曲をつけた「別れ」はレオン・ヒエコとのドゥオ。どの曲も都会的で切ない感傷をともないつつもクールだ。
3人が一緒に歌うのはフィト・パエス作「私は心を捧げに来た」 (Yo vengo a ofrecer mi corazon)、レオン・ヒエコ作「5世紀の間同じ」(Cinco siglos igual)、ビクトル・エレディアの代表作「生きる理由」 (Razon de vivir)の3曲。言うことなしの選曲。
プロデューサーはこのショウを海外に持っていきたいとCDでコメントしている。日本に来たらそれはすごいけど…むずかしいだろうなあ。ソーサ1人でも実現しなかったわけだからねえ…このショウのビデオぐらい出るといいけど。
文:西村秀人