らぷらた音楽雑記帳20*西村秀人・南米音楽サイト『カフェ・デ・パンチート』

HOME > LaPlata20

laplatazakki020.jpg

らぷらた音楽雑記帳

#020 チャマメの歴史と現代の交差点

2003.08.23

今回の紹介CD

EPSA(アルゼンチン盤)0257-02~0262-02 "Antonio Tarrago Ros / Dos en uno 1-6"(写真は第2集)

アルゼンチンのリトラル地方の音楽「チャマメ」。
日本での知名度は今ひとつながらも現地では根強いポピュラリティがある。初めは現地でも蔑まれるような音楽だったというが、1940-50年代に多くのレコードがヒットするようになり、トランシト・ココマローラ、マリオ・ミジャン・メディーナ、タラゴー・ロスなどの名アーティストが登場した。そのタラゴー・ロスの息子がこのアントニオである。(ちなみに父タラゴー・ロスの名演はDBN=EMI 724352943227 Reliquias / Pioneros del chamame vol.4 などにまとめられている)。
アントニオは1947年、父と同じコリエンテス州クルスー・クアティアーに生まれ、19歳で自分のグループを持ち、60年代終わりにはコスキン祭にも出場。本格的に頭角を現し始めたのは1970年代で、1978年に父タラゴー・ロスが54歳の若さで世を去った頃から、従来のチャマメのサウンドにとらわれない音楽性で注目を集め始め、レオン・ヒエコ、テレサ・パロディらとのコラボレーションによって広くその名を知られるようになる。メルセデス・ソーサの名唱でも知られる代表作「マリアは行く」 (Maria va)、レオン・ヒエコとの共作「カリートの歌」がヒットしたのは1980年代後半だった。
アントニオの音楽はオーソドックスなチャマメのスタイルと現代的なセンスを無理なく結びつけたものといってよい(個人的にはサウンドよりも、曲作りの方にその才能を感じるが)。
今回のCD化では1986年から2000年のアルバム計12枚分が2in1の形でCD6枚として出された(バラ売り)。以下にオリジナル・アルバム順でまとめておく。

(1) "Como el agua clara" (1986)(CD1前半)
(2) "Sudaca" (1988) "(CD2前半)
(3) "Fronteras?" (1989)(CD6後半)
(4)(5) "Operita del duende del la selva 1&2" (1990)(CD5)
(6) "Fronteiras abertas" (1991)(CD1後半)
(7)(8) "Naturaleza 1 & 2" (1993)(CD4)
(9) "Corazon perdido" (1996) (CD2後半)
(10) "Suite chamamecera" (1997) (CD6前半)
(11) "Soy el chamame" (1997) (CD3前半)
(12) "Enamorado" (2000) (CD3後半)

上記の通り、CDは時代順になってないのが不便だが、ボリュームはたっぷり。聞き所を挙げておくと、(2)は「マリアが行く」の自作自演((11)にも別バージョンあり)を収録しており、(3)はウルグアイおよびブラジルのアーティストとのコラボレーション作品(ハイメ・ロスとの合作も1曲)、(4)(5)「ジャングルの妖精の小オペラ」はストーリー仕立ての組曲で、グアダルーペ・ファリアス・ゴメス、オスカル・カルドーソ・オカンポ、トリオ・ラウレルとの競演によるミュージカル風の作品。語りが多いのが難点だが、音楽はピュアにリトラル調。(6)はタイトルがポルトガル語になっていることでもわかるかもしれないが、ブラジル南部のアコーディオン奏者ルイス・カルロス・ボルヘスとの共演。ブラジル南部、リトラル、パラグアイの音楽文化に共通点が多いことはよく知られているが、ブラジルのアーティストにアプローチするアルゼンチンの音楽家は少ない。(7)(8)は当時ビデオも発売されたが、環境問題をテーマにしたコンセプト・アルバム。ハイメ・トーレス、カラバハル兄弟、オラシオ・グアラニー、レオン・ヒエコ、ペドロ・アスナルなど豪華ゲスト陣との共演が贅沢だが、メッセージ性が強い分、少しヘビーかも。(10)は3楽章からなる「チャマメ組曲」を含み、オーケストラとの共演。

というわけで好みに合わせて選んで楽しめるわけだが、個人的には豪華共演揃いのCD4 ("Naturaleza")、父の古典的レパートリーの新解釈も入った比較的保守的な内容のCD2("Sudaca" & "Corazon perdido")が好みかな?
この6枚からベスト盤作ったらさぞいいものが出来るだろうな、と思ったりもするが。 スタイルはさまざまでもアントニオ・タラゴー・ロスの音楽には常に豊かなリトラルの自然が感じられる。
文:西村秀人