2003.07.23
この4月から毎週土曜日と日曜日の正午にFM DE LA CIUDAD (FM 2x4)で"TANGO EN VIVO"というコンサート・シリーズのライヴ録音が放送されている。現役アーティストのパノラマといった内容で、ベテランから新人まで幅広い内容で楽しませてくれる(日本でもインターネット放送を通じて聴取可能。ただし12時間の時差があるので、日本では深夜12時。)その6月29日の放送にシンガーソングライターのカチョ・カスターニャが登場した。日本でそれほど知られているとは言えないが、彼の作った"Que tango hay que cantar"(歌うべきはタンゴ)、"Cafe la Humedad"(カフェ・ラ・ウメダー)などは1980年代タンゴのヒット曲となっている。
バラードやポップスの影響を受けた独自のメロディーを持った作品群は現代の歌手たちに愛されている。
もともとはバラード系のジャンルでデビューしたようで、何と1971年にはヤマハが主催した第2回世界歌謡祭にアルゼンチン代表として"Me gusta, me gusta"を引っさげ来日、見事入賞を果たしている。タンゴを作り始めたのはその後のことだ。最近は自作品を中心にしたタンゴのコンサートをブエノスアイレスの劇場でよく行っている。いつも帽子や白いマフラーをまとい、低音できざっぽく語るのだが、ファンには結構若い女の子も多いらしい。
CDもEPSA 730233 "Soy un tango"(1994)、 EPSA 17133 "Cacho de Buenos Aires"(1998)、 EPSA 17171 "Buenos Aires Lado B"(2001)と、ゆっくりしたペースだが出し続けている。そんなカチョの姿を筆者が始めて観たのは1992年、ブエノスアイレスで行われたロベルト・ゴジェネチェに捧げる特別コンサートでのこと。その時カチョは彼に捧げた"Garganta con arena"(砂混じりのしわがれ声)を初めて披露した。その風景は今でもしっかり心の中に残っている。
-わかるだろう、夜はまだ明けない。ポラーコ・ゴジェネチェよ、1曲タンゴを歌ってくれ。おまえの声はタンゴを感動的なものにする。歌え!砂混じりのしわがれ声で!おまえの声にはマレーナが歌わなかった苦悩がある。歌え!人々はおまえを賞賛している。たとえおまえが苦悩していることを知らなくとも。歌え!天国からアニバル・トロイロが枕元に詩を置いてってくれるさ。
その後この曲はカチョ本人のほか、アドリアーナ・バレーラ、ビビアーナ・ビヒル、ホルヘ・アルドゥ楽団などが録音し、ちょっとしたヒット曲になった。もちろん6月29日の放送でも歌われた。私が初めて見た時と違うのは、92年には当のゴジェネチェがステージ上にいてこの曲を聞いていたということ。その2年後には世を去ることになる当のゴジェネチェはどんな気持ちでこの歌を聴いたのだろうか。カチョにはこれからもブエノスアイレスの今を感じさせる都会的な歌のタンゴをたくさん書いてもらいたい。こういう現代的なセンスの歌曲を書ける人は少ないのだ。
文:西村秀人