2003.06.25
ジャズはアメリカの音楽だが、ヨーロッパにしろ日本にしろ、それぞれの国で人気を誇る地元のジャズ・ミュージシャンがいる。いわばジャズの辺境といってもよいアルゼンチンにも優秀なジャズ・メンは決して少なくない。その中でも本格派の先駆者の一人としてオスカル・アレマンの名前を忘れることはできない。
1909 年、およそジャズとは縁のなさそうな北西部チャコ州に生まれたオスカル・アレマンは早くからギタリストであった父の影響を受け、小さい頃移住したブラジルでは巧みにカバキーニョを弾きこなした。顔を見る限り、もともと黒人の血が入っているようにも思え、おそらくはブラジルに親戚もいたのだろうと思う。アレマンは後にブラジル音楽をレパートリーに加え、流暢なポルトガル語で歌も歌っている。
1920年代ブエノスアイレスへ戻るとタンゴ畑などで活躍、ハワイアン・ギターとのドゥオ「レス・ロウプス」や歌手の伴奏に活躍、アグスティン・マガルディのレパートリーとなった「泣くギター」というタンゴも作曲している。1930年代にはパリや北欧で活動。ミュゼット、シャンソン歌手の伴奏、ジャズと多彩な活動をしながら、その才能を開花させていく。
第二次大戦の勃発によりアルゼンチンに帰国。フランスのジャンゴ・ラインハルトのスタイルにならった、バイオリンとギターを中心としたクインテットやオーケストラでジャズの名曲やブラジル音楽を多数演奏・録音し、1940~50年代のアルゼンチン・ジャズの「顔」となった。
その後世間から忘れられた時期もあったが1970年代に復活、数枚のアルバムを残したあと1980年に世を去った。かつての録音は今もCDで聞けるが、まじめなジャズもあれば、エンターテイメント性あふれたユーモラスな演奏もある。後者には当時発表されたばかりだった「ベサメ・ムーチョ」のユニークなスイング・バージョンや、セバスチャン・ピアナ=オメロ・マンシの名コンビによる名曲「悲しいミロンガ」をサンバ・カンソンにアレンジした珍品などが挙げられるだろう。ブラジルもののレパートリーだけを集めたCDもあり、「ティコ・ティコ」「アパニェイチ・カヴァキーニョ」などで巧みな演奏を聞かせる。
別な意味でアルゼンチン盤CDではおなじみのスタンダード曲がスペイン語タイトルになっているのが面白い。「イン・ザ・ムード」は De buen humor、「アレクサンダーズ・ラグタイム・バンド」はLa banda de Alejandro、「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」 は Llevame volando a la luna、「アイ・ガット・リズム」は Tengo ritmo...単なる直訳だが何とも響きがおかしい。
今年の3月、ブエノスアイレスの地下鉄の駅ホームでユニークなジャズ・フェスティバルが行われたが、そのメインタイトルは「オスカル・アレマンへのオマージュ」だった。彼の偉業は今もジャズ・ミュージシャンによって称えられている。
(オスカル・アレマン単独CD一覧:おおまかに録音順)
(1) Fremeaux & Associes S.A.(France) FA020(1920-40年代の録音)"L'Ecletique Genie Argentin de la Guitare"
(2) Acoustic Disc(USA) ACD-29 "Swing Guitar Masterpieces 1938-1957" (2CD)
(3) EMI 724352276226 "Lo mejor de los mejores"
(4) EMI 724349962422 "Coleccion Aniversario"
(5) DBN=EMI 724354168628 "Con ritmos de Brasil"
(6) DBN=EMI 724354168727 "Grandes exitos vol.1"
(7) DBN=EMI 724354203022 "Grandes exitos vol.2"
(8) Pagina 12 sin num. "Oscar Aleman 1&2"
(9) AQCUA AQ048 "Grabaciones recuperadas"
(10) AQCUA AQ049 "Oscar Aleman con Los Cinco Caballeros" (65年録音)
(11) Redondel CD45001 "El inolvidable Oscar Aleman" (72-74年録音)
(12) Redondel CD45025"El inolbidable Oscar Aleman Volumen 2" (72年録音)
(13) Universal UMD50044 "Guitarra salvaje"
(14) Universal UMD50052 "De buen humor"
文:西村秀人