2003.02.26
最近ちょっと珍しいアメリカ盤LPを入手した。
RICOVOX RVLP-511 "JUAN CARLOS COPES / ARGENTINE REVUE IN U.S.A"
実はこれ、タンゴ・ダンスのトップ・アーティスト、フアン・カルロス・コーペスの北米公演の成功を記念して制作されたLPなのである。今から約40年前、 1962年の発売。ライヴ録音風にスタジオ録音を仕立てたもので、タンゴはもちろん、ミロンガ(このLPでは"FASTANGO"=早いタンゴとして紹介されている)、巧みな足さばきの音も収録されたマランボ、歌(歌手はロベルト・フローリオ)、抒情あふれるバンドネオン・ソロに鮮やかなピアノ...よく考えてみると実は1980年代にコーペスを含むそうそうたるメンバーによって世界的なタンゴ・ダンス・ブームのきっかけを作ったブロードウェイ・ショウ「タンゴ・アルゼンチーノ」のアイデアと基本的に変化はないのだ。コーペスがタンゴ・ダンス・ショウのパイオニアと呼ばれる所以である。
ところで、上掲ジャケット右端のバンドネオン奏者にご注目いただきたい。あまり鮮明ではないが、実は当時ニューヨークで仕事にあぶれていたアストル・ピアソラの姿なのである。実際にピアソラがコーペスのショウに参加していたのは59年で、このLPの制作時にはアルゼンチンに帰っていたのだが、別の奏者の写真がなかったのだろう。
昨年12月、コーペスはグローリア&エドゥアルド、マジョラル&エルサ・マリアなどの名コンビとともに久々に来日、東京で小松亮太のオルケスタ・ティピカとの共演コンサート、ダンスのワークショップなどを行った。長年連れ添った夫人マリア・ニエベスとは袂を分かってしまったが、娘のヨハナが立派なダンサーに成長し、今回は父娘という珍しいコンビで「王様」のダンスを見せてくれた。タンゴ・ダンスのパイオニアはこのLPの40年後もその至芸を守り抜いていたのである。
文:西村秀人