らぷらた音楽雑記帳02*西村秀人・南米音楽サイト『カフェ・デ・パンチート』

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らぷらた音楽雑記帳

#002 「マルティン・フィエロ」と音楽

2003.02.05

ラプラタの草原にいる牧童のことをガウチョという。アメリカならcowboy、メキシコならcharro、チリならhuaso 、ブラジルではgaucho(ガウーショ)と呼ばれ、いずれも独自の文化の担い手として知られている。
アルゼンチン~ウルグアイ地域のガウチョは植民地時代にさまざまな事情で放浪生活を始めたスペイン人がルーツだといわれている。先住民から馬や牛の扱いを習い、牧場で働きながら放浪を繰り返し、ギターを愛し、自由に生きた。
そんなガウチョたちの音楽といえばパジャーダ(Payada)。スペイン伝来の脚韻を巧みに踏みながら、ミロンガやエスティロといった形式でギターをつまびきながら、即興で歌を作って、相手とその歌の出来を競うのだ。そのパジャーダの伝説的名手が現在ブエノスアイレスの国際空港の名前になっている、ガビーノ・エセイサだ。
そのガウチョの語りのスタイルを踏襲した詩の形で作られたホセ・エルナンデス著「マルティン・フィエロ」はいわゆるガウチョ文学の最高傑作で、アルゼンチンでは国民全員が読む本になっている。ガウチョは自由の象徴であり、アルゼンチン人のアイデンティティであり、勇敢な男の理想であり、失われた過去への叙情詩でもある。
日本でも一度邦訳が出されたこの作品の朗読・演唱レコード・CDも少なくない。私の手元にも4種ある。

1.ODEON LDC902-4 "Martin Fierro"(LP3枚組、タンゴの作詞・作曲家としても知られるホセ・ゴンサレス&カトゥロのカスティージョ父子が舞台用に書いた脚本を元に、コロン劇場オーケストラ、フォルクローレの名手を集めて伴奏を録音した豪華版。)

2.MUSIC HALL 401-2 "Martin Fierro/ FranciscoPetrone"(LP2枚組、こちらも名優 の朗読と最高峰ロベルト・グレラのギター伴奏付き)

3.PHILIPS 526062-2 "Horacio Guarany canta Martin Fierro" (CD、大衆のアイドル、フォルクローレのグアラニーが大昔に弾き語りで録音したものの復刻。)

4.COMPACT ARGENTINA 12007-12 "Martin Fierro de Jose Hernandez" (CD6枚組、何とガウチョ文学のもう一つの傑作「ドン・セグンド・ソンブラ」を書いたリカルド・グイラルデスの孫で俳優のフアン・ホセ・グイラルデスによる朗読。)

観光客用のお土産屋にも大抵この本は置いてある。聞くところではCD-ROMも出ていたとか。いつまでもアルゼンチン人の心に深く住むガウチョ、マルティン・フィエロなのだ。
文:西村秀人