極論するとアルゼンチンの音楽家には2つのタイプがあるように思える。一つは饒舌で友だちが多くて、自己顕示欲旺盛で、どんなタイプの仕事でもそつなくこなしていけるタイプ。もう一つは音楽以外のことにはあまり頓着せず、どちらかと言えば寡黙で、器用とはいいがたいがしっかり自分の世界や芸を持っているタイプ(特に古い世代の音楽家に多い)。アリアスは明らかに後者のタイプ。実は私はアリアスとじっくり話をしたことはなく、いくつか言葉を交わしただけである。ただその時のことは強烈に憶えている。
映画にも登場するモンテスとのドゥオによるブエノスアイレスでのコンサートの後、アリアスに私が近づいていくと、挨拶するのを待たずにいきなり私に「そのビデオカメラはいくらするの?」ときいたのだ。その後少し話をして、たまたまタンゴ初期のギタリスト、マリオ・パルドに話が及んだ。パルドは1910年代からギター・ソロ編曲でのタンゴの録音を残している先駆者なので、アリアスは興味があるかと思ったのだ。ところが「パルドの作品はクラシックっぽくて面白くないんだよね...」とバッサリ。パルドは録音上ではタンゴやフォルクローレのソロ演奏を多数残しているが、復刻はほとんどなく、おそらくアリアスは出版された彼の作品の楽譜のことを言っていたのだろう。でも「クラシックよりポピュラーの方がずっと素晴らしいんだよ!」といいたげな口ぶりが、少ない言葉の中に感じとれたのであった。
すごい名手だけど、とっても不思議な雰囲気を持った人である。