ポデスタとはいまだに話したことがない。というか、この人の人相をみるとあんまり気軽に話しかけたくなるタイプではない... 印象に残っているのはサンテルモ地区のひなびたタンゲリーア「ラ・クンパルシータ」のステージ。この店は今もあるはずだが、値段が安く、観光客より地元のお客さんの方が多いような場所(そしてショウを見終わって外に出るといつもガス臭かったこともよく憶えている。ブエノスアイレスのガス管は古いので、爆発の危険がない程度のちょっとしたガス漏れは結構あるようで、現地の人もあまり気にしていない)。当時はけっこう有名な歌手が入れ替わり立ち代り出演しており、1995年に私が行った時の出演者は、ウルグアイ出身のミゲル・アンヘル・マイダーナ(司会進行役兼)(彼はフリオ・ソーサのそっくりさんとして知られたカルロス・マイダーナの息子、来日経験もある)、アルベルト・ポデスタ、アルフレド・ベルーシが登場した(この店はたいてい朝の4時ぐらいまでいろんな人が入れ替わり立ち代り登場するからもっとたくさんの歌手が深夜にも出ていたはず)。伴奏はバンドネオンとピアノで、しかも店のアップライトピアノがぼろすぎて使えないので、キーボードで代用。
ポデスタはお得意の「おもちゃのバザー」を初め朗々たる歌を聞かせ貫禄充分だったが、「淡き光に」のイントロでバンドネオンが思いっきりキーを間違え、イントロがちょっとグジャグジャになった。とたんに鬼のような形相でバンドネオンをにらんだポデスタのその時の顔は怖かった。ま、芸に厳しいということなのだと思うが...。
今でも南米コロンビア国ではもっとも人気あるタンゴ歌手の一人である。かつてはコロンビアのメデジンに自分の店も構えていたほどだ。今年で86歳、まちがいなく本当の意味での現役を続けている最高齢の男性タンゴ歌手である。