らぷらた音楽雑記帳36*西村秀人・南米音楽サイト『カフェ・デ・パンチート』

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らぷらた音楽雑記帳

#036 飾らないアルゼンチン・ポップスのライオン:
レオン・ヒエコ・ライヴ

2004.04.18

CD&DVD EMI 7243 5 97501 0 1 "El vivo de Leon / Leon Gieco"

 アルゼンチン・ポップス界の重鎮レオン・ヒエコの新譜である。やや変則的なスタイルでCDとDVDがDVD用のトールケースに一緒に入っている。いずれもライヴ・レコーディングなのだがCDとDVDの内容はまったく別もの。形式としてはDVDがメインで、CDがおまけという形らしく、DVDは2003年 10月3~5日の3日間のルナ・パーク・スタジアムでのライヴ、CDはタイトル"Bandidos rurales en vivo"でもわかるように2001年のアルバム"Bandidos rurales"のライヴ・ツアーでの録音(らしい)。
正直なところ、私はレオン・ヒエコの大ファンというわけではない。私の中のレオン・ヒエコ像は軍政末期から民政移管の頃に流行った「私は神に祈るのみ」 (Solo le pido a Dios)や、アントニオ・タラゴー・ロスとの共作「カリート」(Carito)であり、アルゼンチンの山奥まで録音機を担いで地元の外に出ないフォルクローレの達人たちを記録した一大プロジェクト「ウシュアイアからキアカまで」(De Ushuaia a la Quiaca)のレオン・ヒエコなのである。

そんな私がこの最新録音を聞いてどう思ったか?...実は印象ははっきり言って変わらなかったのである、これが。
きわめてシンプルないつものヒエコ節というか、どんな人でもすぐ覚えられて一緒に合唱できてしまうようなメロディラインばかり(実際DVDの冒頭、ギターを弾かずにヒエコが「五世紀変わらず」"Cinco siglos igual"を歌いだした次の瞬間、ルナパークの観衆は全員一緒に歌い始めた)。それが悪いわけではない。明らかに他の同時代のアーティストの作品とは違う大きな特徴があり、すぐレオン・ヒエコの曲だとわかる。レギュラー・バンド「ラ・バンダ」の4人とともに、時にロックっぽく、時にフォルクローレを取り入れたサウンドを展開していく。キューバの古典「グアンタナメラ」をやけにロックっぽいアレンジでやっているのにちょっと違和感があるが、大半は自作曲だ。
DVDの中頃で登場する「エル・チョケ・ウルバーノ」(都会の衝撃)というドラム缶やフライパンを中心としたパーカッション・アンサンブル(アメリカやヨーロッパにも似たようなグループがあったと記憶する)の参加は面白い。他にもゲストはいるのだが、正直あまり目立たない。
今回DVDでもCDでも改めて感じたのは、ギターをかき鳴らし、時にハーモニカをふく、というそのスタイルとは裏腹に、ロックやブルースよりも北米のカントリー・ミュージックやフォークの影響が強いのだなあ、ということ。大掛かりな芸術性の高いような作品、とがった自己主張を前面に押し出したアグレッシヴな作品、懐古、前衛...そういったものはこの人には無縁なのだ。そういう部分はCDよりも映像で見て初めてわかることかもしれない。
実際のライヴ会場は映像よりさらに熱気がこもっているのだろう。
DVDのラストは「私は神に祈るのみ」。私の数少ないレオン・ヒエコのイメージに忠実なこの曲は2003年でも古くはない。この人の音楽性のエッセンスがこの曲にあるからなのだろう。


文:西村秀人