PaPiTa Review 002
2011-05-29
遙かな光を感じさせる音楽
Text por そらみつ
アルゼンチン・ロックの代表的なアーチストに、ルイス・アルベルト・スピネッタという人がいる。
卓越したギターワークと、たゆたうような独特のヴォーカル、恐ろしく文学的なエッセンスとイマジネーションで彩られた歌詞。
一昨日、渋谷のサラヴァ東京で、新譜プロモーションのために来日したフロレンシア・ルイスの演奏とヴォーカルは、そのスピネッタを彷彿とさせるものだった。
定刻をやや過ぎて、銀と褐色の混じった不思議な色合いのロングヘアーを無造作に垂らし、白いブラウスにジーンズでフロレンシアが登場。
思っていた以上に骨太で揺るぎない音楽だ。ヴォーカルを聞いていると、色糸の束ねたものをサーっと広げたようで、彼女の血の一部であるという先住民の声が混じって聞こえてくる。
「眠るために起きる 眠るために起きる 眠るために 起きる・・・」
単純な歌詞の繰り返しが、スライドを何枚も重ねるうち、そこに全く違うものが見えてくる、そういうオリジナル曲もあった。
スペイン語の歌詞なので、松田さんの助け舟解説があって良かった。
これなどスピネッタの ?No ves que ya no somos chiquitos? を思い出させるではないか?
(この辺ご存知の方、どう思われますか)
フロレンシアのギターと歌のソロ、松田さんとのデュオ、ギターの鬼怒さんのテクニカルで端正なソロ、おやっと思うほどアルゼンチン的な鶴来さんのピアノ、鋭い感覚の佐野さんによるベースとチェロ。
その全体を愛情深く包んでいたのがヤヒロさんのパーカッションとホスピタリティである。
終盤に近づくにつれ、怒涛の勢いでロック化していったのが私には嬉しかった(大歓迎です!)
フロレンシア・ルイス(ヴォーカル、ギター)
佐野篤(ベース、チェロ)
ヤヒロ・トモヒロ(パーカッション)
鬼怒無月(ギター)
鶴来正基(ピアノ)
ゲスト出演 松田美緒
自分の夢であった来日、そしてライブの実現した喜びをお客さんに伝えるフロレンシア。
飾り気のない言葉で、時に茶目っ気を交え、実力派ぞろいの共演者と音楽に対する愛情を分かちあっている空気がステージから伝わってくる。
旧譜、新譜"Luz de la Noche"からのナンバー、そして
ゲスト(というよりこれに先立つ北海道での強力なサポーターと呼ぶのがふさわしい)松田美緒さんとのデュオでは、松田さんオリジナル曲「銀の髪のひと」も披露された。
それを聴くと、松田さんがいかにフロレンシアの音楽に惚れ込んだかよく分かる。
以前からずっと彼女のサポートをしている音友タニィさん、相方パンチートさんから「ロック・ナシオナルの帝王チャーリーを師匠と仰いでいる・・・」とか色々話は聞いていたものの、彼女を紹介する際の一応のジャンル分けである「エクスペリメンタル・ポップス」、そのスタジオ録音と初めて来た場所・共演者で行うライブの差がどうなるのか、気になっていたのである。
実際に体験してみると、これはアルゼンチン・ロックの系譜につらなる広大なスケールの音楽だという印象を持った。
つまり、巷でいう女性アーチストだからこう、という「カワイイ狙い」の実験的なポップスものとは一線を画する。
当日は、素晴らしい共演者とフロレンシアが創りだす大きな音楽世界を存分に楽しめる、今後への期待に満ちた2時間余りのパフォーマンスであった。 (S)